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Research 

● 年縞堆積物中に残る枝角類の遺骸・休眠卵を用いた、湖沼環境や生態系の長期変動の解明
Otake et al.(2021) Ecology and Evolution ; Otake et al. (2021) Limnology; Otake et al. (2022) Freshwater Biology

湖沼では、土砂などの無機物と生物由来の物質
が恒常的に湖底へ堆積していきます。攪乱の少
ない湖沼では、この堆積した層がそのまま保存
されているため、下から上まで分析することで、
過去から現在までの環境や生態系の変動を分析
することができます(図1)。
​枝角類(ミジンコ類)は湖沼堆積物中に、殻や
身体の一部を生物遺骸として残す代表的な生物
の一つです。この遺骸は種ごとに異なる形状を
しており、且つこの量は水中個体アバンダンス
の指標となります(図2)。よって、遺骸の組成や量を分析することで、過去の枝角類群集の構造や、長期群集動態を知ることができます。加えて、枝角類は環境が不適である際に休眠卵を産生しますが、この休眠卵は卵鞘という丈夫な構造に包まれているため、遺骸と同様に堆積物中に長期的に保存されます。この休眠卵はDNA分析の試料として利用できるので、遺伝的構造の長期変動まで明らかにすることができます。更に、休眠卵を孵化させることで過去に生育していた個体を生体で得ることができます。これは、形態のみでなく生活史形質や環境条件への応答まで幅広い過去個体の形質分析を可能にします。
​これらの有効性を活かし、枝角類群集や各種個体群の長期変動、環境応答を解明する研究を行っています。
 
古陸水学的分析概要.png

図1. 古陸水学的分析の概要  

図2.  生物遺骸の例.

   生体写真の赤矢印が、遺骸

   として保存される部分

● 被食者動物プランクトンがもつ対捕食者誘導防御の単一湖沼内マイクロハビタット間差異
Otake et al. (2020). Limnology
突起の長いツボワムシ×200.tif
​図1. 対フクロワムシ誘導防御を
  発達させたツボワムシ
ワムシ論文1.png
ワムシ論文2.png
​図2. ヒシ群落と解放水面におけるツボワムシの対捕食者
​  誘導防御と、優占捕食者の違い
​図3. ヒシ被度、捕食者、
  ツボワムシ誘導防御の関係
多くの生物群で、特定の捕食者存在下でのみ防御形質を発現する「誘導防御」が知られます。自然条件下の捕食者による誘導防御への影響の検証は、地理的に離れた捕食者存在地と非存在地など、捕食者以外の要因も大きく異なる環境条件間の比較で行われてきました。そこで、この研究では環境条件の差異が小さいと考えられる、同一湖沼内での誘導防御発現の比較を行いました。本研究では、被食者動物プランクトンとしてツボワムシに着目しました。ツボワムシは肉食性のフクロワムシの化学物質(カイロモン)に応答し、顕著な側突起を伸ばすことが知られています(図1)。ヒシ群落と、ヒシのない開放水面で被食者ツボワムシ1450個体の対フクロワムシ誘導防御、及び捕食者密度を比較しました。その結果、ヒシ群落発達期において、ツボワムシの誘導防御発現はヒシ群落よりも開放水面で顕著でした(図2)。また、ツボワムシの捕食者であるフクロワムシとケンミジンコの密度にも、ヒシ群落と解放水面間に違いが見られました(図2)。フクロワムシは解放水面を選好した一方、ケンミジンコはヒシ群落に多く生息していました。統計解析より、ツボワムシの側突起伸長度は、フクロワムシとケンミジンコの植生間密度差異によると示唆されました(図3)。よって、自然条件下において、差異の小さな環境条件間であっても、誘導防御に対する捕食者の影響が存在すると示唆されました。
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